第1回 社団法人 日本民間放送連盟


業界団体インタビューの記念すべき第1回目は、日本の民間放送局の業界団体である日本民間放送連盟、通称「民放連」さんにお話を伺いました。

社団法人 日本民間放送連盟(略称:民放連〔英文名"The National Association of Commercial Broadcasters in Japan"、略称:NAB〕)

Q1:日本民間放送連盟は、どのような目的を持って設立された団体なのでしょうか?
A:民放連は、1951年に日本に民間放送産業を定着させるためにラジオ16社が集まって設立された団体で、2010年10月1日時点で201社が会員となっています。 団体としての目的は定款に書かれている以下の文に集約されています。 『この法人は、放送倫理水準の向上をはかり、放送事業を通じて公共の福祉を増進し、その進歩発展を期するとともに、一般放送事業者共通の問題を処理し、あわせて相互の親ぼくと融和をはかることを目的とする』(定款第3条より) この言葉に合致するかどうかが、この団体の活動において、一番の基盤となっています。

Q2:団体の構成はどのようなものでしょうか?
A: 民放連という団体は放送局ではないし、番組を作ることも、代表取材をすることもありません。また、各局の番組や経営に直接関わることもありません。さらに、業界団体としては珍しく会員社である放送局の人がいません。普通の業界団体は、会員社から出向した人が職員になりますが、民放連はみんなプロパー(生え抜きの職員)です。逆に言うと現場を知らない人が働いています。そのことがいい面も悪い面もありますね。個別の放送局の事情を知っていたらやりにくいこともありますし、業界が困ることも言わなきゃいけない立場でもあります。つまり全体として接しています。一定期間を過ごしたらもとの会社に戻るわけではありませんので、ここで骨を埋める覚悟でやらないと、業界全体を考えて動くことはできないという考えが根底にあるのではないでしょうか。

Q3:定款にも書かれている放送倫理についてお聞かせください。
A: 放送法では、各局が番組基準を作成するように定められており、民放連ではそのひな形としての「民放連放送基準」を制定しています。これは民放共通の自主的な倫理基準です。よくある質問に、民放連の基準を破ったらどうなるのですかというのがありますが、罰則規定はありません。業界全体として社会との相対で考える際に重要となる基準を作成し、会員社の参考にしてもらっています。放送基準は、放送の影響力が大きいことを踏まえて、放送によるミスリードをなくすことを目指しています。また、放送基準は社会の変化やテレビ自体の影響力の変化と共に改定しています。 電波は公共のものです。放送局は国から免許を得て事業を行っています。そのために高い公共性を求められる放送局は、高い倫理観を持たなければ何らかの形で外部から規制が入ってしまいます。放送基準は我々を守り、皆さんのメディアを守ることにも繋がっています。

Q4:民間放送が抱える共通問題とは何でしょうか?
A:まず、収入を得る手段であるCMという商業上の制約があります。そういった商業性と、先ほどお話しした公共性の両立が課題となります。商業放送(NHKのような公共放送と区別して使われる語。ちなみに厳密にはNHKも民間放送)として、公共性と車の両輪のように収益も得なければならない。収益が安定して初めて放送ができます。視聴率至上主義であるという批判もありますが、収益のベースがあるから、無料で放送という娯楽が提供できていることも事実です。自由闊達さの裏には経済的な基盤が不可欠です。 現在、民間放送は厳しい経営環境にあり、昨年の決算は収入の下げ幅が過去最大となりました。放送局は派手で儲かっていると思われがちで、就職でも人気が高いですが、実際はそんなに楽ではない。広告費が収益源ですから、広告主企業の収入が減ると放送局の収入もガタ落ちします。NHKは受信料という安定した収入がありますが、民放はそうもいかない。 オリンピックなどはNHKとも協力して放送枠を確保しますが、南アフリカのワールドカップは赤字でした。国際的なスポーツは視聴者の関心も高いので、赤字だからといってやめるわけにはいかないし、皆さんに届けなきゃいけない。そういった両立は課題ですね。トータルとして考えれば、バランスが大切なんです。 そういった放送局が抱える悩み事は、一社だけでは解決できないから、集まって解決策を探る。また、その中で国や権利者団体などに向き合うための組織として民放連が存在しています。

Q5:NHKのような公共放送やイギリスのBBCのような国営放送と比較して、民間放送の利点は何でしょうか?
A:民放のメリットをはっきりと挙げることは難しいですね。元々民間放送は多様な番組を提供するという思いからできたものです。民間放送がいいからできたのではなく、1局だけではだめだというところから始まっているわけです。言論の多様性を考えた場合に、第二次世界大戦前にNHKしか放送局がなかったという反省に立って民間放送ができました。逆にいえば、公共放送や国営放送といった形以外で放送局を運営しようとした場合、その在りようとしてはCMをいれた広告放送という形態は画期的なものだと思います。この放送形態も民間放送の意義だと思います。放送局を増やすと言っても、それが公共放送や国営放送では多元性の意味がないわけです。そうするとどういう形態で放送を運営していくのかという中での一つの叡智が商業放送なのだと思います。 定量的な言い方ではありませんが、NHKは冒険をしにくい。それは受信料で運営しているからかもしれません。民放なら、いろんな番組を作って冒険できます。 学生さんの中にも、NHKが国営放送だと思っている人がいて、民間放送だと言うとびっくりする人がいます。NHKの受信料は、番組の対価ではなく、NHKという放送システムを支えるというお金です。したがって番組を見ていないから払わないと理屈は違うと思います。民放はそれに縛られずに自分達で資金を得て、番組を作っているわけです。そこもメリットかもしれませんね。

Q6:教育番組や報道番組に比べ、バラエティー番組はその意義が見えにくく感じられます。
A:放送は「日常」だと思うんです。ドキュメンタリーやニュースだけが放送ではないし、バラエティー番組で笑ったりするのも含めて日常生活を広くカバーするのが放送だと思います。視聴率とは無関係にいい番組もある。優れた番組は民放連でも日本民間放送連盟賞や日本放送文化大賞で表彰しています。

Q7:近年インターネット上の動画投稿サイトなどで、昔のドラマなどが無料で見られると言ったことが知的財産権や著作権の問題として言われています。そういったインターネットなどの新しいメディア体系への対応策・適応をお聞かせください。
A:新しいメディアができることは技術革新の中で当然です。新しいメディアが利用者を増やすために過去の作品を使おうというのも作戦の一つです。 放送局の作品が流れるということは、アメリカなどでは逆手にとってマーケティングに使われています。そういう使い方も考えられますから、新しいものが全て敵なわけではありません。そこは知恵の使いどころですね。 著作権の侵害に関して言えば、放送局が番組を作る際にはあくまで電波で放送することを想定しています。放送局を含む権利者にとって、自分の著作物を無断でネットなどで使われることは、生活手段を奪われることになります。本来ならそれで対価を得られるわけですから。海賊版を流通させたりする人は、そうした権利を横取りしているわけで、民放連としては彼らとはやっぱり戦わないといけない。海賊版を買う人も、盗品故買の意識が希薄なのは問題です。 権利者の創造するものをないがしろにする行為は、そこから先の創造を破壊します。不正な利用を続けると、めぐりめぐって不毛地帯を生んでしまうことを認識してほしいですね。 また、著作権の問題では利用者の利便ばかり言われていますが、それを生み、流通させ、経済的な糧を得るものの存在を考えないといけないと思います。放送局は微妙な立場で、権利者の方々の創造物を使わせていただいて、それを放送したら今度はその放送の権利者になります。放送局は利用者と提供者両方の立場で見据えなければいけません。

Q8;民放連が今一番、力を入れている事業は何でしょうか?
A:地デジ化ですね。この事業を2011年7月に完成させないといけない。 問題は送信側と受信側の2つに分けられます。 送信系では基本的なカバーはできていますが、穴ができている。まだ立っていない中継局を年内に完成させる計画です。本来見えるところが見えないという問題もあります。明らかにカバーしているはずのエリア内でも見えないところがあることが電波を流すと分かってきます。どうしても間に合わないところがありますが、そこは衛星放送でカバーして、4年以内に地上系を整備します。 一番の問題は受信側で、受信機が買えないなど「見たくても見れない人」を何とかしなくちゃいけない。放送局ではこの問題は解決できません。国策として地デジ化をやるからには、国に何とかしてもらわないといけないので、民放連からも働きかけています。 受信側に対して放送局ができるのは周知活動です。我々ができることは放送ですから、NHKと共に地デジ化の一斉告知を行ったり、アナログ放送の上下の部分に告知をしたりしています。この放送でコールセンターへの問い合わせが跳ね上がりました。実際に、来年の7月に地デジに完全移行することはほとんどの皆さんはご存知でしょう。後は行動を促すことです。

Q9:テレビ回線部というのはどのような業務を行っているのでしょうか?
A:放送局間をつなぐネットワーク回線の運用をしています。番組はキー局で多く作られますが、そこで作られた番組は日本各地をつなぐ光ファイバー回線を使って全国の放送局に伝送されています。ずいぶん前にシステムが変わりましたが、それまでは実際に回線の流れを切り替える装置があって、それで放送局間の繋ぎを調整していました。その組織は民間放送テレビ回線センターといって民放連とは別組織だったのですが、2004年4月1日に民放連と統合しました。昔はマイクロ回線と言って電波でネットワークを構築していましたが、気象条件などで繋がらなくなったりしました。 今は光ファイバーで安定した回線が提供されています。日本で最初のテレビ局は日本テレビ放送網株式会社ですが、名前通り日本全体を結ぶネットワークの構築を構想していました。テレビ局はそれぞれ各都道府県の一国一城の主ですから、ネットワークを使った協定を結ぶという形で放送網を形成しています。民放が持っているネットワークは、基本形はありますがシステムとしては自由自在に組めます。キー局だけではなく、どの局からも全国の局に送り出すことも物理的には可能です。

Q10: 民放連として、放送局間の交流について手助けはしていますか?
A:直接的に交流の手助けは行っていませんが、放送局共通の問題を解決するために活動しています。具体的には、各局から委員を出してもらい、委員会を組織しています。各委員会は20名前後の委員で構成されています。委員会の下には専門部会やワーキンググループがあります。 委員会の委員は、地区や系列のバランスを考慮し、委員会で議題に上がったことを各局に持ち帰ってもらいます。そうすることで自然に情報共有ができています。そういった意味では、共通問題に取り組むことで交流というか情報共有ができていると言えますね。 民放連の最高意思決定機関は総会ですが、機動的に対処できるよう、具体的な課題は毎月開催の理事会で対応が決定されます。その理事会に向けて各委員会でボトムアップ式に議論を積み上げていくわけです。どこの業界団体でも、こうした委員会が中心となって共通の問題に取り組んでいるのではないでしょうか。 会員社を対象に、放送倫理や報道記者の心構え、技術や著作権の基礎知識などの各種研修会も実施しています。

Q11:最後に、学生にメッセージをお願いします。
A:もっとラジオを聞き、テレビを見てください。もっと放送に関心を持ってもらいたい。現在はインターネットが発達し、自分から気軽に世界に発信することさえできます。しかし、インターネットの情報は取りに行かなくてはいけないものだから、どうしても視野が狭くなってしまいます。インターネットは自分が知りたいものを深めるのには有効だけど、向こうから入ってくる情報も重要です。少なくとも地上波放送は総合編成をしていて、固いものから軟らかい内容の番組までを放送しています。いろんな情報が出ていますから、それに触れて視野を広げてもらいたいですね。そこで気になったことを深めていく場面でインターネットを活用してほしい。学生さんにはそうしたメディアの使い分けを上手くやってほしいですね。新聞を開けると、目に全体的なものが入ってくる。ネットの場合はスポーツならスポーツ記事のところをクリックして見ますよね。そうしてしまうとそこしか見られないし、広い視野が得られない。テレビにしろラジオにしろ、つけっぱなしにすればいろんな情報が入ってくる。その中で関心領域を広げてほしい。ぜひ利用してほしい。願わくば、さらに日本のメディアの先に目を向けて、今どこに関心が深く向けられているかを見極めてほしい。 また、ニュースへの接し方も学んでほしいですね。ニュースの流し方、カメラの視点でも印象は変わります。かつての学生運動の報道でも、機動隊側から撮るカメラと、デモ隊側から撮るカメラとでは、同じことを映していても全然印象が違ってしまうということを先輩から言われました。同じ素材でもニュースの取り上げ方や視点を読みそこなうと、本質を見誤ってしまう。それは放送局ももちろん注意しなければならないことですが、そのようなメディアリテラシーも是非身につけてほしいですね。

貴重なお話をありがとうございました。
(取材場所:日本民間放送連盟)

取材を通して、民間放送が抱える公共性と収益性のバランスという課題が、逆に民間放送のエネルギーとなっていることを感じました。収益性を確保することの難しさや、それが確保されることで得られる、民放ならではの自由さがあることも学ぶことができました。 また、業界団体として業界を俯瞰的に見ながら、放送業界の発展を目指す姿勢も印象に残りました。 担当者の方には非常に気さくにお話ししていただき、普段聞けない質問にも分かりやすく答えていただきました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

取材担当者:河 和機

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